平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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服部まゆみ『この闇と光』(角川書店)

この闇と光

この闇と光

森の奥の別荘に幽閉された盲目の姫、レイア。彼女が知っている世界はこの別荘だけであり、世界の住人は失脚した父王と、侍女のダフネだけであった。父王はいつも優しかったがいないことも多く、そしてダフネはレイアを虐めてきた。父王はレイアのために物語を読んで聞かせ、文字を教え、そしてカセットテープに物語を吹き込み、音楽を聴かせてくれた。髪が伸び、成長するレイア。しかしレイアが13歳になったとき、それまで信じてきた世界が音を立てて崩れ去った。

1998年刊行。新本格ミステリー書き下ろしシリーズの1冊。



新本格という言葉が完全に定着し、そして新本格と銘打たれただけで一部読者が必ず手に取るような時代がすでに過ぎ去った頃、なぜか発刊された角川の新本格ミステリー書き下ろしシリーズ。バブル的な新本格ブームが過ぎ去ったのに、なぜ今になってこんなシリーズを作るのだろうと思いつつも、書き下ろしの単行本ということでそれなりに追っていた。新刊で買いながらも、今頃読むのはいつものことである。

前半部のファンタジーを思わせる展開と、後半部の真実と現実を突きつけられる展開。その二つの世界のギャップと、最後に明かされる真実がこの作品の醍醐味。闇と光の対比が効果的に生かされており、服部まゆみの幻想美が短いページの中で効果的に照らし出された傑作である。

とはいえ、前半部分がまだるっこしいと思う人がいてもおかしくはない。私はああいうゆっくりと成長する展開は好きなのだが。

それと装丁はお見事。これだけでも、単行本を持っている価値がある。