- 作者: アンドリューヴァクス,Andrew Vachss,佐々田雅子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1994/09
- メディア: 文庫
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1985年発表、1992年翻訳。ドイツ・ミステリ大賞受賞作。1994年、文庫化。
例によって今頃読むかなな一冊。
池上冬樹の解説がわかりやすいので、まずは簡単なハードボイルド史を抜粋する。
ダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラー、ロス・マクドナルドなどの正統派、ミッキー・スピレインのタフガイ・ノヴェルに代表される通俗派のハードボイルドは、50年代から60年代後半まで、一部の作家が活躍するだけで、やや停滞の感があった。ところが、70年代に入って、マイクル・Z・リューイン、ロバート・B・パーカー、ジョゼフ・ハンセン、ジョー・ゴアズ、ビル・プロンジーニ(この順序は池上の好みの順であり、発表年順ではない)などの、ネオ・ハードボイルド派(小鷹信光命名)が登場した。さらに80年代に入ると、サラ・パレツキー、スー・グラフトンを代表とするレディ・ガムシューが隆盛し、ジョナサン・ケラーマン、ベンジャミン・シュッツ、マックス・アラン・コリンズ、ビル・クライダー、ロバート・クレイス、アンドリュー・ヴァクスといったポスト・ネオ・ハードボイルド派が登場する。
ということで、アンドリュー・ヴァクスは、粗筋紹介にもあるとおりポスト・ネオ・ハードボイルド派の旗手である。ネオだの、ポストだの、評論家ではない読者にとってはある意味どうでもいい区分けであり、私個人としても面白ければそれでいい。そして本書は、とても面白かったのだ。
「悪をもって悪を制す」という言葉が日本にはあるが、本作品にその言葉は当てはまらない。探偵バークは前科があるし、金がないときはちょっとした詐欺行為に手を染める。付き合っている仲間もアンダーグラウンドの世界の人間ばかりだ。しかし、バークにとって正義か悪かということは関係ない。頼まれた依頼を、そして怒りを覚える相手にぶつけるために使う手段が、法律上で認められていないものが多いというだけだ。社会を乱す存在かもしれないが、そんなアウトローの姿がとても魅力的だ。
さらに事件を頼むフラッドも魅力的。彼らのやり取りは、時に笑えるし、時に怒りを覚え、そして時に共感する。
作者は青少年犯罪と幼児虐待専門の弁護士であり、解説に出てくるインタビュー記事でも、作家となった理由について触れられている。しかしこの作品は、単なる告発を小説化しただけではない。それだけで、バークのような存在を書けるとは思えないし、書けるはずもない。やはり作者が書きたいのはバークであり、バークの周囲を取り巻く人たちであり、そして魅力なヒロインたちなのだろう。その造型と心理描写が素晴らしい。
ということで、噂にたがわぬ傑作。さて、次はこれまたダンボールにあった『ブルーベル』に手を付けることにしよう。