平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ポール・リンゼイ『目撃』(講談社文庫)

目撃 (講談社文庫)

目撃 (講談社文庫)

P・コーンウェル氏も激賞! 現職のFBI捜査官が犯人逮捕の合間を縫って書き上げた話題騒然の犯罪小説。捜査当局内部にマフィアのスパイが潜入。警察協力者のリストが盗み出され、罪もない市民に処刑の危機が! 同じ頃、同僚の娘も誘拐され――。経験者のみが書き尽くせた驚くべきFBI内部の腐敗。(粗筋紹介より引用)

1992年発表、1993年翻訳。



例によって、今頃読むかな一冊。

自分の地位を守ることだけに力を使う官僚的上司とそのイエスマン部下、それに対抗するかのように自らの信念に基づき真実と犯人を追い求める刑事。警察小説ならよくある設定である。本作もそんな作品の一つだが、理解ある上司のおかげでチームを組んで捜査にあたるところが珍しいといえば珍しいか。ベトナム戦争の経験があるFBI特別捜査官マイク・デヴリンが主人公だが、作者も同様の経験を持っているところから、この主人公はほぼ作者の姿を投影したものであるのだろう。

本書がヒットした大きな理由の一つは、現職のFBI捜査官というところだろう。ピラミッドの組織と自らの地位を守るだけの上司の姿というのは、作者自身こそモデルはないと書いていても、結局はそういう上司がいるからこそ書けた内容である。とはいえ、いくら現職捜査官がこういう作品を書いても、FBIの組織が変わるということは絶対に有り得ない。そういう点で虚しさを感じるのは私だけだろうか。

現職ではあまり見られないと思われるスピーディーでドラマティックな展開は、ありきたりでも警察小説の王道を守っており、読者を飽きさせない。二作目を読もうという気にはならないが、とりあえず面白かったとだけは書いておこう。