- 作者: 水上勉
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/09/06
- メディア: 文庫
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経済雑誌「評」に1960年10月号から1961年12月号にかけて連載された「蒼い渦」という約250枚の小説に380枚の新稿を追加し、新たな長編小説として1962年12月、カッパノベルスより刊行。
水上勉お得意(と本人が言っているが、私は『霧と影』ぐらいしか知らない)の繊維業界もの。詐欺事件を追う警視庁捜査二課の遠山刑事と、殺人事件を追う茨城県警の車谷刑事の捜査が交互に書かれ、そして二つの事件が交差し、互いに意識しながら捜査を続けるという、刑事物としてはよくある姿の初期のものといってよいだろう。刑事が一人で単独仁追うところとか、容疑も固まっていないのに平気で容疑者に尋問する(そんなことしたら相手が警戒するだろう)といったところがお粗末ともいえるが、詐欺事件と殺人事件を絡める姿はこの頃のリアルっぽい姿を書き表したものといって間違いない。今読むと稚拙かもしれないが。
本書の恐ろしさは結末にある。被害者の執念というものが集中したこのラストだけは読む価値があるといってよい。私はトリックこそ知っていたものの、こういう風に使われているとは知らず、読み終わって思わず震えてしまった。トリックそのものは大したことがないのだが、それを成立させる過程を蓄積してきた筆に、水上勉のすごさを私は知った。ま、今読んだら大したことないや、という人も多いだろうけれど。
扱われる舞台も、散りばめられた謎も、使われたトリックも大したことがないのに、それらの要素をとりまとめると一つの作品ができるといういい典型。社会派推理小説全盛の頃の一つの形として、記憶されてもいい推理小説ではないだろうか。