平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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鶴見俊輔『夢野久作・迷宮の住人』(双葉文庫 日本推理作家協会賞受賞作全集)

怪奇幻魔探偵小説『ドグラ・マグラ』で知られる夢野久作は、政客・杉山茂丸の長男として生まれ、二・二六事件の直後、47歳で急逝するまで、「めくらまし」を表現しつづけた。戦争に向かって歩んでいく、昭和初期の世相を背景に捉えられたその実像と作品。独自の人物伝で知られる著者が、異能の探偵作家に肉迫する。(粗筋紹介より引用)

評論家として活動している鶴見俊輔が、中山茂と松本健一とともに編集にあたり、リブロポートから刊行された「シリーズ 民間日本学者」の中の一冊として、1990年に刊行。第43回日本推理作家協会賞評論その他部門賞受賞作。



鶴見俊輔は元々1962年に「思想の科学」に「ドグラ・マグラの世界」を発表し、夢野久作再評価のきっかけとなったというぐらいだから、夢野久作研究の第一人者なんだろうが、本書はどうも今ひとつ。夢野久作の実子である杉山龍丸の著書からの引用が多く、また他からも色々と引用があり、鶴見自身の視点、思想というものがあまり見られない。

だが、本書で書きたかったのは、夢野久作という人物像そのものであり、そこに自らの思想を加えるのは趣旨に反すると判断したのではないだろうか。その判断のおかげなのかどうかはわからないが、『ドグラ・マグラ』を初めとする奇々怪々摩訶不思議な小説を書き続けてきた夢野久作という人物を知るには格好の一冊となったような気がする。

これを読んで、もう一度夢野久作を読んでみたくなった。前回読んだときはまだ大学生で、理解することほとんどできなかったのだが、今度は少しでも夢野久作の世界をつかむことができるだろうか。