平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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三宅彰『風よ、撃て』(文藝春秋)

風よ、撃て

風よ、撃て

佐竹亨は警察官になって15年、上田警察署で刑事係長の職にある。家族は見合いで結婚した控えめな妻と、小学4年生で言葉を失いかけている娘が一人。12年前、人質とともに立てこもった犯人を逮捕する際に拳銃を使い、ともにいた係長たちに当たりそうになったことを叱責され、取材に当たっていた恋人と別れた経験を持つ。

二戸田にある山の斜面から発見された白骨死体は殺人の可能性があった。そして浮かび上がってきたのは11年前、強盗致死を含む3件の事件で指名手配された犯人が少女を人質に取り、二戸田で逮捕された事件。犯人は当時、所在不明の現金を持っていた。無期懲役囚である彼は、尋問になにも答えない。白骨死体の身元が割れ、そして山の麓の一軒家に住み、事件当時の証言をした老人が殺害された。

過去の事件を捜査しているうちに浮かび上がってくる新たな事件。自らのささやかな幸せを守るため、佐竹は事件解決に立ち向かう。

1997年、第14回サントリーミステリー大賞受賞作。



作者は1956年上田市生まれで執筆当時は上田市職員。知っている場所を舞台にした刑事物。25歳の頃から小説を書いていたからか、文章や内容そのものは新人らしからぬ手堅さがある。ただ、中年の刑事が一つの事件から偶然が重なって複数の事件を追いつつ、かつての恋人の姿に心を揺さぶられつつも家族への愛情を認識し、過去のミスを思い浮かべながらも犯人逮捕へ向かうというストーリーは、2時間刑事ドラマ以上のものはない。事件を追う刑事も人間なんだよ、みたいなことを頭に浮かべながら書いたのだろうが、テレビの影響を強く受けすぎているのではないか。最後にとんでもない事件へ発展するところは、刑事家族ドラマと事件解決を両立させようとする意図とかけ離れている。

読んでいて退屈じゃないけれど、時間つぶし以上のものはなにもなし。刑事が事件を追っていったら、芋蔓式に事件が引っかかったというだけの話。テレビドラマにはしやすかっただろう。

作者は2000年に『殺意』(角川書店)、2007年に『猟犬の日』(幻冬舎)を出している。一応作家は続けているんだ、と今頃知った次第。


ポツポツとサンミス読了コンプリートを目指しているのだが、今のところ最難関は『殺人フォーサム』かな。単に読む気が起きないというだけだが。