- 作者: 海野碧
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/03/20
- メディア: 単行本
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圧倒的な文章力に緻密な描写力。満場一致で日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した快作! 次作が待ち望まれる大型新人、登場。(出版社からの紹介より引用)
2007年、第10回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。応募時の名義は海野夕凪。パッサカリアとは、「愛と哀しみのパッサカリア」(原題The Passacaglia)というイギリス映画であり、菜津はその映画のサントラ盤、特にラストがお気に入りだった。パッサカリアはもともと、ヨーロッパ17、18世紀頃の古典派の音楽形式の一つ。
大道寺と菜津プラスケイト(飼い犬)の関係を、大道寺の回想という形で時を前後させながら語っていく描き方は、ページ数をかなり割いたゆっくりとしたものだが、その分かえって二人の関係がじわじわと心に染みこんでいく。どこがミステリなんだという突っ込みはさておき、恋愛小説としてはまあ読ませる方だろう。大道寺の人物像が出来すぎというか、非の打ち所がないように書かれているのは、やや面白味に欠けるのも事実だが。まあそれでもここまではよかったのだが、後半はどたばたで雰囲気を台無しにする。ハードボイルド、というかサスペンスというか、そういう小説なんだから仕方がないが。
後半は大道寺の昔の稼業である「始末屋」の仲間たちが現れる。この「始末屋」とは、依頼人が抱えているトラブルを解決するために、非合法すれすれの計画を実行するチームであり、大道寺は「プランナー」だった。大道寺は自らにかかった火の粉を振り払うため、仲間たちとともに東京へ向かう。この辺の大道寺の動きが、どうも説得力に欠けている。大道寺の書かれ方が完全無欠すぎるので、話が面白くならないのだ。沈着冷静程度なら許せるが、いきなり事件に巻き込まれたけれど全てのことがわかっていますよ、といった主人公では、読んでいても盛り上がりに欠けるだけ。もう少しピンチに陥った方が、人間味が出てきたんじゃないだろうか。
前半と後半の流れとムードが違ってしまったのは残念だし、後半のハードボイルドな活動部分はほとんど付け足しじゃないかと思えるぐらい適当というか、簡単にまとめられてしまっているのは残念だが、多分この作者が書きたかったのは大道寺と菜津の恋愛模様であり、ゆっくりと心を通わせていく姿を書きたかっただけだと思われる。少なくとも前半はくどいところがあったけれど面白かった。今後は恋愛小説を書いていけばいいのではないか。ミステリが向いている人とは思えない。
全部を読んでいるわけではないけれど、日本ミステリー文学大賞新人賞って、大当たりが出ないよね。光文社が意地になってやっているだけのような気がするのは、私だけ?