平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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高木彬光『破戒裁判 新装版』(光文社文庫)

破戒裁判 新装版  高木彬光コレクション (光文社文庫)

破戒裁判 新装版 高木彬光コレクション (光文社文庫)

二件の殺人及び死体遺棄の罪に問われ、起訴された元俳優。弁護人・百谷泉一郎は、被告人の容疑を晴らすべく、検察と対峙する。そして、彼が取った驚くべき戦法とは!? 全編公判シーンで描かれる、日本の法廷ミステリーの原点。百谷弁護士シリーズ、唯一の短編「遺言書」と、「丸正告発裁判」の特別弁護人に至るエッセイを収録。(粗筋紹介より引用)

1961年5月、東都書房東都ミステリーの一冊として書き下ろされ刊行。さらに「婦人公論」1962年1月号に掲載された、百谷シリーズ唯一の短編「遺言書」と、「宝石」他に載ったエッセイを収録。



私は、高木彬光こそが日本一のミステリ作家だと思っている。ミステリの様々なジャンルにおける代表作といえる名作、傑作を数多く残し、通俗ものや少年ものも含め数多くの作品を残し、デビューから晩年まで新しいことにチャレンジし続けてきた作家は、高木彬光しかいない。日本で「もっとも偉大な」作家となると江戸川乱歩横溝正史、もしくは松本清張の名が挙がる(他の作家を挙げたい方は、ご自由にどうぞ)だろうが、作品としての実績は、その誰もが高木彬光には届かない。私はそう考えている。なお、異論は受け付けない(笑)。

私は日本ミステリ史上、もっとも優れた作品は『人形はなぜ殺される』だと思っているが、高木彬光の最大傑作は、と聞かれると本作を挙げたい。被告人である村田和彦に対する弁護人質問からの怒濤の展開は、高木彬光全作品の中でもっとも光り輝く名場面である。地味に、そして退屈になりやすい法廷シーンを淡々と描写し続ける作品なのに、この驚きは何だろう。この感動は何だろう。何回、何十回読んでも、この感動が色褪せることはない。

法廷ミステリの原点であり、今なお頂点に燦然と輝く傑作。この作品を読まずして、法廷ミステリを語る資格はない。