平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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J.J.マリック『ギデオンの一日』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

ギデオンの一日 (1977年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ギデオンの一日 (1977年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ロンドン警視庁にその人ありと知られた犯罪捜査部長ジョージ・ギデオンは、続発する犯罪に体の休まる時がない。きょうも、麻薬密売人の賄賂をうけた部下の一人が何者かにひき逃げされるという事件が起った。一方、ロンドン市内では、最近頻繁に郵便車が襲撃されてるし、さらには憎むべき少女殺しの容疑者も緊急手配しなければならない。強盗、殺人、麻薬密売と果しない犯罪の後を追ってギデオンの一日は暮れる。事件の中には解決されるものもあれば、未解決に終るものもあるというミステリの新しい行き方を示した警察小説の古典的名篇。(粗筋紹介より引用)

21のペンネームを用い、600冊近くを出版した大変な多作家として知られるジョン・クリーシーが、J.J.マリック名義で書いて人気を博したギデオン警視シリーズの第1作。1955年、アメリカのハーパー・アンド・ロウ社から、少し遅れてイギリスのホッダー・アンド・スタウトン社から出版された。



ロンドン警視庁のギデオン警視を主人公とした人気警察小説シリーズの第1作。このシリーズの特徴は、複数の事件が同時に発生、進行する「モジュラー型」であること。いくつもの事件が発生し、報告を受けたギデオン自らが捜査に乗り出すものもあれば、指示を出すだけのものもあり、時には何もしないまま事件が解決されているものもあり、そして事件が解決しないまま物語が終わってしまうこともある。こうした多数の事件を同時進行させることにより、多忙である警察組織のリアリティを生み出している。

本作はギデオンものの第1作ということもあるためか、ギデオンの一日を写実する形式となっている。ギデオンの元に報告される事件の数が半端でなく、またいくつかは絡み合っているため、読者は追いかけていくのに精一杯であるが、物語のテンポがよいため、物語の把握に苦労することはなく、楽しく読むことができる。

途中では事件の被害者側、犯人側の描写も挟まれており、短調になりがちな事件捜査の進行にアクセントを加える役割を果たしている。この辺りの緩急の付け方は、多作によって培われた作者の技術だろう。ギデオンの妻との微妙な会話、上司や部下とのやり取りなども、物語に深みを与える役目を果たしており、さすがといえる。

このシリーズが人気を得たというのは当然の結果だと思える面白さだが、今ではあまり入手できないというのは残念なことである。全部で22作ということだが、全ての翻訳はされないだろうな……。

解説では、警察小説の歴史について簡単に書かれており、こちらも勉強になった。