- 作者: 大倉崇裕
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/05
- メディア: 単行本
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「山岳ミステリを書くのは、私の目標でもあり願いでもあった」と語る気鋭が放つ、全編山の匂いに満ちた渾身の力作。著者の新境地にして新たな代表作登場!!(粗筋紹介より引用)
2008年、書き下ろし。
作者がようやく山岳ミステリを書いてくれた、というのが最初の印象。東京にいた頃(作者のデビュー前)にお付き合いさせてもらったことがあったので、山岳系の同好会に所属していたことは聞いていたし、投稿時代には確か山岳ものの短編をいくつか書いていたはず。『天空への回廊』が出たときは、かなり気にされていた。それがいつまで経っても書かれなかったので、すっかり諦めていたところだった。あとがきには「試行錯誤をくり返すうちに、あっという間に十年がたってしまった」と書かれているので、作者も相当苦労したことが伺える。
それにしても、山岳ミステリと本格ミステリを融合させるというのは、かなり難しい試み。それも冬山を舞台にしているのである。証拠はみな雪に埋もれてしまう。捜査もままならない。目撃者等も期待できない。証拠が残らないように機械的なトリックを仕掛けるのも難しい。梓林太郎のように山岳ミステリを得意にしている作家もいるが、かなりの至難の業だろう。作者はそれを楽々とクリアしている。まあ、「楽々と」なんて書いてしまうと作者に怒られるだろうが、少なくとも文章からは苦労の跡が全く見られない。苦労の跡が残っている小説は、読んでいて結構苦痛になるものだ。
本格ミステリとしての楽しさばかりでなく、現在の登山の背景、登山の素晴らしさ、山に登る人たちの魅力を十分に描ききっているのだから、面白くないはずがない。感動の一冊、まさに脱帽である。ただ、エピローグだけはちょっとありきたりすぎないかな……などと思ってしまうとき、自分はひねくれているなと感じてしまうが(苦笑)。
器用貧乏なところがあるため、面白さほどの評価が得られなかった作者ではあったが、本作は代表作となるにふさわしい力作である。今年のベスト戦線を賑わすことになるだろう。