平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ジョナサン・ラティマー『シカゴの事件記者』(創元推理文庫)

シカゴの事件記者 (創元推理文庫 129-2)

シカゴの事件記者 (創元推理文庫 129-2)

泥酔した新聞記者サム・クレイは、ベッドの中で目をさました。それは自分の部屋ではなかったし、隣に眠っているのは全裸の血まみれの美女だった。その時けたたましく鳴りひびく電話のベル……。殺人事件の巧妙な罠におちたサムは、皮肉なことにその事件を担当して取材することになった。凶悪犯として捜査の対象になっている自分を救うためにも、一刻も早く真犯人をつかまえなければならない。シカゴの大新聞社を舞台に、命がけで奮闘する事件記者の生態をハードボイルド・タッチで描くラティマーの代表作!(粗筋紹介より引用)

1955年の作品。邦訳は1965年。



『モルグの女』『死刑六日前』で有名なラティマーの事件記者もの。とはいえ、シリーズにはならず、本作のみで終わっている。

主人公が目を覚ますと横に死体が転がっており、警察に怪しまれながらも、自らの疑惑を晴らすために必至に事件の真相を追いかける内に、被害者の隠された過去が徐々に明らかになるという展開は、ハードボイルドの型の一つといってもいい。やや軽めのタッチで書かれ、途中の登場人物たちとのユーモアあふれる掛け合いや主人公のどたばた振りなどは軽ハードボイルドっぽく見えるのだが、最後に意外な謎解きを用意しているところはさすがというべきか。ただ、その軽さはテンポよく読ませる効果こそあるものの、緊迫感を削ぐという意味ではマイナスであったと思う。

もっと面白くなるはずなのに、とにかくその場のノリとリズムを優先させてしまった感のある作品。サスペンスに徹した方がよかったとは思うのだが。向こうでの人気はどうだったんだろう。シリーズ化されなかったのは、やはり人気が今ひとつだったからか。それとも、組織に縛られた記者より、もっと自由に動ける私立探偵の方に人気が集まったからか。
1994年の復刊フェアで購入したもの。相馬浩次の解説は、このときに書き下ろされたものだろう、多分。