平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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水上勉『死火山系』(光文社文庫)

死火山系 (光文社文庫)

死火山系 (光文社文庫)

山林王にして大富豪の檜山財閥。その経営会議の翌日、浅間山が大爆発、事務所員二人が巻き込まれた。運良く助かった一人は数日後、東北の山中で死体で発見され、さらに当主の修平まで行方不明となり……。一族の暗い歴史が横たわる複雑な事件の渦中に、陸稲の研究者・江田とその恋人で檜山家の長女・絵理子は引きずり込まれていく。文豪の筆が冴える迫真の展開。(粗筋紹介より引用)

「大阪新聞」夕刊に1962年9月4日〜1963年5月15日連載。150枚加筆語、角川書店から1963年11月に単行本化。1960年に訂正・削除・加筆の上、カッパ・ノベルスより刊行。水上勉ミステリーセレクション。



水上勉ミステリーセレクションは全冊(といっても、今のところ4冊だが)買っているのだが、読み始めたのは本書が最初。2008年1月に本書が出てから止まっているから、売れ行きが悪かったのかな。まあ、確かに読んでみても、つまらないわ。

作者はあとがきで「山林未解放の悲劇のありさまを、わかりやすい推理小説の中にとけ込ませてみようとした作者の意図は、これで、かなえられたであろうか」と書いているのだが、残念ながら触れただけ、というのが正直なところか。とりあえず殺人事件をいくつか起こして、山林業界に少し触れ、読者受けしやすいように恋愛部分を盛り込んで、といったような、社会派推理小説である。悪い意味で、社会的な問題を背景とした殺人があるだけ、の作品でしかない。それでも、問題の捉え方に訴えるものがあればまだ救いがあるのだが、問題部分に触れてみただけ、というのでは話にならない。新聞連載ということもあるせいか、とりあえず場面場面で盛り上がればいいや、みたいなところしか感じられない作品で、読んでいても苦痛だった。

社会派推理小説がアッという間に衰退したのは、こういう作品を推理小説として取り上げて大量生産した結果なんだろうなということを再認識させられた。つまらなかったが、とりあえず残り3冊も読んでみることにしよう。