平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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高木彬光『成吉思汗の秘密 新装版』(光文社文庫)

成吉思汗の秘密 新装版 (光文社文庫)

成吉思汗の秘密 新装版 (光文社文庫)

兄・頼朝に追われ、あっけなく非業の死を遂げた、源義経。一方、成人し、出世するまでの生い立ちは謎に満ちた大陸の英雄・成吉思汗(ジンギスカン)。病床の神津恭介が、義経=成吉思汗という大胆な仮説を証明するべく、一人二役の大トリックに挑む、歴史推理小説の傑作。本編にまつわるエッセイの他、短編「ロンドン塔の判官」を併せて収録。(粗筋紹介より引用)

「宝石」1958年5月〜9月掲載、10月に光文社より単行本化。1960年のカッパノベルス版で最終章を加筆。

「宝石」1959年1月掲載のエッセイ「成吉思汗余話」、「GALLANTMEN」1979年10月掲載のエッセイ「お忘れですか? モンゴルに渡った義経です」を収録。

ロンドン塔を舞台にした短編「ロンドン塔の判官」を収録。



本屋で見掛け、急に読みたくなり買った一冊。最初に読んだのはもう30年近くも前になる。あのころの記憶としては、歴史推理小説としては結構面白かったのだが、それよりもあの神津が結婚することの衝撃の方が強かったことを覚えている。

久しぶりに読んでみると、思ったより面白くない(笑)。テンポがよすぎる分、あっさりしすぎなのである。実際はかなり苦労しているのだろうけれど、物語としての面白さを求めるためにそのあたりを数行しか書かなかったから、神津が大して苦労もせずに説を証明してしまった印象が強い。それにこの作品、最終章がなかったら平凡な作品で終わっていたと思う。最終章の衝撃があるからこそ、傑作として今まで読み継がれてきたのだろう。

今のごちゃごちゃしすぎる作品を読み慣れてしまったせいか、こんな感想しか出てこなかった。国産歴史推理小説の傑作ではあるだろうが、嚆矢としての位置付け以上のものはない。多分初めて読んだときは、素直に感動したのだろう。こうして人は、オトナになってすれていく(って違うか)。