平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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恒川光太郎『雷の季節の終わりに』(角川書店)

雷の季節の終わりに

雷の季節の終わりに

現世から隠れて存在する小さな町・穏で暮らす少年・賢也。彼にはかつて一緒に暮らしていた姉がいた。しかし、姉はある年の雷の季節に行方不明になってしまう。姉の失踪と同時に、賢也は「風わいわい」という物の怪に取り憑かれる。風わいわいは姉を失った賢也を励ましてくれたが、穏では「風わいわい憑き」は忌み嫌われるため、賢也はその存在を隠し続けていた。賢也の穏での生活は、突然に断ち切られる。ある秘密を知ってしまった賢也は、穏を追われる羽目になったのだ。風わいわいと共に穏を出た賢也を待ち受けていたものは―?透明感あふれる筆致と、読者の魂をつかむ圧倒的な描写力。『夜市』で第12回日本ホラー小説大賞を受賞した恒川光太郎、待望の受賞第一作。(「BOOK」データベースより引用)



『夜市』で日本ホラー小説大賞を受賞し、直木賞候補にもなった作者の長編第一作。前作同様、日本の現世には存在しない世界を舞台としており、現世とリンクするところも変わらない。

雷季という季節、「風わいわい」という物の怪、地図に載っていない土地。どことなく古くて、そして懐かしさを覚えるような舞台設定。そしてある事件に関わり、秘密を知ってしまったために穏から逃げ出す少年・賢也。そして追いかける者たち。物語はここまでで半分以上が過ぎる。

そして現世での出来事が語られ、徐々に二つの世界がリンクする。現世の出来事で登場する佐竹茜。そして賢也の逃亡の結末が語られ、謎が一気に明かされる。

舞台の説明と賢也の逃亡劇が半分以上を占め、さらに茜に起きた出来事にも多くの枚数が費やされる。そして事件の結末とその後はアッと言う間に終わってしまう。起承転結の「起」「承」が長すぎ、「転」が短すぎるのだ。そのため、作者が描きたかったはずの「結」が全く生きてこない結果となってしまっている。

作者は、舞台設定や賢也などの登場人物を生かすための文章に力を入れすぎてしまった。後半のパワーダウンがあまりにも残念である。後半、読者をアッと言わすことができていれば、この作品は傑作となったに違いない。世界観の創世は素晴らしかった。

前半傑作という言葉がぴったり来る作品である。