平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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川端裕人『夏のロケット』(文春文庫)

夏のロケット (文春文庫)

夏のロケット (文春文庫)

火星に憧れる高校生だったぼくは、現在は新聞社の科学部担当記者。過激派のミサイル爆破事件で同期の女性記者を手伝ううち、高校時代の天文部ロケット班の仲間の影に気づく。非合法ロケットの打ち上げと事件は関係があるのか。ライトミステリーの筋立てで宇宙に憑かれた大人の夢と冒険を描いた青春小説。(粗筋紹介より引用)

1998年、第15回サントリーミステリー大賞優秀作品賞受賞作に、加筆訂正を加えたもの。



粗筋通り、宇宙に憑かれた大人の夢と冒険を描いた作品。大人の打算を含めながらも、高校時代の夢をそのまま実現しようとする姿は美しい。ほとんどの大人が挑むことのできない、青春時代の夢を大人になっても実現させようとする姿は、仕事と家庭に疲れた大人たちにとって永遠の憧れでもある。ロケットの歴史や現状、さらには裏面、そして物理学・材料力学などのデータをふんだんに折り込み、夢の姿とリアリティを両立させる腕はなかなかのものである。評判は聞いていたけれど、噂通りの面白さ。人生に疲れた大人たちへの清涼剤ともいえる逸品である。

出版された当時でも不思議がられていたが、なぜこれがサントリーミステリー大賞に応募されたのだろう。ファンタジーノベルの方に応募すべき作品だっただろうね、間違いなく。