- 作者: 柴田哲孝
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2006/07
- メディア: 単行本
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七〇年代の世界情勢、さらに二〇〇一年九・一一米同時多発テロ事件にまで連関する壮大なミステリーが今、ルポルタージュの迫真を越える!(粗筋紹介より引用)
『下山事件 最後の証言』で2006年、第五九回日本推理作家協会賞(評論その他部門)、日本冒険小説協会大賞(実録賞)を受賞した作者が2006年に書き下ろした長編。第9回大藪春彦賞受賞作。
『下山事件 最後の証言』で気になっていた作者が大藪賞を受賞したということで、とりあえず一気読み。帯にあるお薦め文を読んで、結構期待していたのだが。結論から書いてしまうと、題材はいいのに勿体ない。
場面の切り替えが下手というか、過去の部分と現在の部分の見分けがつきにくいという欠点が気になり、第一章の途中までは今ひとつのれなかった。しかし、文章の癖に慣れ、第二章に入って事件が徐々に核心に触れていくにつれ、物語の面白さに没頭できるようになった。場面場面のシーンの書き方はうまい。ノンフィクション作家らしく、事実を細部まで書き込んでいるから、細かい部分まで情景が目に浮かんでくる。そこへ、連続殺人事件における犯人「天狗」?の謎、さらにその「天狗」の影で暗躍する米軍人の謎などが絶妙に絡みあう。さらに現在における道平と千鶴との心の触れあいが心地よいアクセントとなり、話のボルテージは一気に上昇する。
そこまではよいのだが、問題はその先。
同時多発テロ事件をきっかけに、謎のままで終わるかに見えた連続殺人事件は、一気に解決を迎える。問題はここ。
まず、あっさりと解決を迎えること自体がどうかと思う。あれだけ苦労している割に、関係者の告白だけで謎が全て解けてしまうというのは、せっかくの盛り上がりに水を差す結果となっている。このあたりは、ノンフィクション作家らしいミスだと思う。
さらにこの解決自体、呆気にとられる人も多いんじゃないだろうか。解き明かされる謎が、あまりにも予想外の方向というか、想像外の方向に流れていく。DNA解析の結果から、勘のいい人なら予想がつくかもしれないが。なんかこううまく言えないのだが、小説として求められている結末とは別の方向を向いたまま終わっちゃっているんじゃないの、というようなもどかしさがあるのだ。伏線も張らずにこの結末を迎えるのは、唐突すぎる気がする。
もっとページを使い、伏線をきちっと張れば、傑作と呼ばれる作品に仕上がったのではないだろうか。重要登場人物である彩恵子や千鶴、大貫あたりはもっと書き込んで欲しかったと思うし、謎の米人ケント・リグビーも正体の明かし方が下手。日刊群馬の松井だって、書き方次第ではもっと活躍させることができたと思う。有賀雄二郎なんてすごく面白いキャラクターなのに、活躍する場面が少なすぎる。結末ももっと書き足すべき。あれで終わりなんて、尻切れトンボだ。
最初にも書いたが、題材は最高。ただ、料理の腕が今ひとつ。小説の中で出てくるダッチオーブンみたいに、最高の料理には仕上げられなかったようだ。今の倍ぐらいは、ページを使ってもいいと思うね。それぐらい、内容自体は濃い。ただ、味付けが今ひとつだから、淡泊な作品で終わってしまっている。本当に勿体ない。