平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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道尾秀介『シャドウ』(東京創元社 ミステリ・フロンティア)

シャドウ (ミステリ・フロンティア)

シャドウ (ミステリ・フロンティア)

人間は、死んだらどうなるの?―――いなくなるのよ―――いなくなって、どうなるの?―――いなくなって、それだけなの―――。その会話から三年後、鳳介の母はこの世を去った。父の洋一郎と二人だけの暮らしが始まって数日後、幼馴染みの亜紀の母親が自殺を遂げる。夫の職場である医科大学の研究棟の屋上から飛び降りたのだ。そして亜紀が交通事故に遭い、洋一郎までもが……。父とのささやかな幸せを願う小学五年生の少年が、苦悩の果てに辿り着いた驚愕の事実とは?(粗筋紹介より引用)



意外と速いペースで書いていますね、作者は。一作毎に作品のトーンを変えながらも、どれも面白いというのは大したもの。『シャドウ』は小学五年生の少年を主人公としている。母親の死から始まった不可解な事件の謎を追いかけていく内に、衝撃の真相に辿り着く。これだけだったらよくある筋と言ってお終いになるところだが、その真相に辿り着くまでにミステリ的仕掛けを様々なところに、そしてサスペンスを損なうことなく織り交ぜるその巧さに脱帽する。少年の成長ものとして読んでも、全く違和感のない仕上がりになっているところも見事。サスペンス小説として、少年小説として、そしてミステリとして。いずれのジャンルに区分しても違和感がない、しかも上位に配置できる作品。この作者の引き出しの多さが恐ろしい。

ただ好みだけで言えば、前作『骸の爪』の方が好き。これはもう、好みだからどうしようもない。いずれにしても、今年一番注目されたミステリ作家、そう言ってしまっていいだろう。ヒット級の作品は多かったが、ホームラン級の作品が少なかった2006年。MVPを選ぶとしたら、この人でいいんじゃないだろうか。