- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2006/08
- メディア: 単行本
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杉村はある日、トラブルを起こしたアルバイトアシスタント、原田いずみの身上調査のため、私立探偵である北見一郎のもとを訪れた。そこで出会ったのは、首都圏連続無差別毒殺事件で祖父を亡くした女子高校生、古屋美知香だった。
首都圏で連続的に発生した無差別毒殺事件。発生した4件はいずれも、コンビニエンスや自動販売機で買った飲み物の中に、青酸カリが混入されていた。しかし美知香の祖父の事件では、警察は無差別毒殺事件に便乗した殺人事件で、犯人は美知香の母、暁子ではないかと疑っているらしい。
相談にのっているうちに、いつしか杉村は事件の真相を追う羽目になる。さらにトラブルを起こして辞めさせられた原田いずみが、杉村とその周辺に様々な嫌がらせを行うようになった。
2005年、北海道新聞・中日新聞・東京新聞・西日本新聞に連載。又、河北新報・中国新聞に2005年〜2006年に連載された作品に加筆修正し、最終章を書き下ろした作品。杉村は『誰か……』に続く登場である。
宮部みゆき3年ぶりの現代ミステリーは、あらゆる場所に潜む「毒」を取り上げた作品。連続無差別毒殺事件が表向きの事件として出てくるが、主人公が巻き込まれるのはその事件とは無関係でこそないものの、あくまで身の回りで起きる事件ばかりである。マスコミに騒がれるような事件ではなくても、人は様々な「毒」を浴び、侵される。だからこそ作者はそれらの「毒」を「名もなき毒」と名付けたのだろう。
社会に潜む様々な「毒」。それは人の悪意であったり、シックハウス症候群であったり、土壌汚染であったり、単なる噂であったり、いじめであったり。本作では様々な形の「毒」が、杉村の周りで浮かび上がり、事件を形成していく。他にも介護問題や夫婦間の問題など、色々と話題として取り上げられながらも、当事者以外にはすぐに忘れ去られるような問題などを巧みに織り交ぜ、エンディングまでの複数の事件が物語られていく。
物語の構成力、複雑な複数の事件をわかりやすい形で描く文章力、登場人物の全てに血を通わせる表現力、一度読んだら止められなくなるストーリー展開など、やっぱり宮部みゆきは巧い!と唸らざるを得ない。ただ、そこから先、何が凄いんだ?と聞かれると答えられなくなるのも、この作家の特徴のような気がする。平易な形で書いてしまうから(だから読みやすいのだが)、これぞ!と言ってしまうアピールポイントがあるようでない。それがこの人の最大の長所であり、また短所のような気がしてならない。
現代を代表するミステリー作家だと思うけれど、乱歩や清張などに比べるとあくの強さというか、その独特の色というものが全く感じられない。もっともこの混沌の時代では、そのような無色さがもっとも受ける時代であり、自らを一番浮かび上がらせる「色」なのだろう。