平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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乙一『銃とチョコレート』(講談社 ミステリーランド)

銃とチョコレート (ミステリーランド)

銃とチョコレート (ミステリーランド)

少年リンツの住む国で富豪の家から金貨や宝石が盗まれる事件が多発。現場に残されているカードに書かれていた『GODIVA』の文字は泥棒の名前として国民に定着した。その怪盗ゴディバに挑戦する探偵ロイズは子どもたちのヒーローだ。

ある日リンツは、父の形見の聖書の中から古びた手書きの地図を見つける。その後、新聞記者見習マルコリーニから、「【GODIVA】カードの裏には風車小屋の絵がえがかれている。」という極秘情報を教えてもらったリンツは、自分が持っている地図が怪盗ゴディバ事件の鍵を握るものだと確信する。リンツは「怪盗の情報に懸賞金!」を出すという探偵ロイズに知らせるべく手紙を出したが……。(粗筋紹介より引用)

かつて子どもだったあなたと少年少女のためにの―――ミステリーランド 第十回配本。



乙一はほとんど読んでいないのだが、この作者とミステリーランドという言葉がどうも重ならず、どのような作品を書いたのだろうかという不安があった。読み終わってみると、乙一は本当に凄い作家だと、今更ながら脱帽してしまった。

世間を騒がす怪盗の地図らしきものの発見。少年のヒーローである名探偵ロイズの登場。ロイズとともの行動。急転直下の出来事から、宝探しへ。命を狙われる大冒険。冒険心を揺さぶらせる様々な場面を、これでもかと提供してくれる。特に嫌われ者のドゥバイヨルという配置が絶妙。少年が持ち合わせる残酷さ、ひねくりぶり、大人と対角線にある位置の存在を一手に引き受けている。第一次世界大戦後のヨーロッパのような背景描写が、事件の雰囲気をさらに盛り上げてくれる。怪盗、名探偵、宝探しといった謎と冒険の面白さに、大人社会のずるさ、醜さも巧みに織り交ぜながら、勇気を奮うことの素晴らしさを伝えた作品。平田秀一の不気味なイラストも、事件を盛り上げるのに一役買ってくれている。

タイトルの「銃」と「チョコレート」という対比も巧いね。作者が持つ「毒」を上手に薄めたことが、本作品を成功に導いた要因だろうか。2006年のベスト10に入る傑作。
1ヶ所だけ、引っかかった部分があるんだが……、まあ、些細なことなんだろう。


どうでもいいが、ご結婚、おめでとうございます。スポーツ新聞に載っていたので、とりあえず。