平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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道尾秀介『骸の爪』(幻冬舎)

骸の爪

骸の爪

ホラー作家の道尾は、取材のために滋賀県の仏所・瑞祥房を訪れた。その夜、彼が見たのは、口を開けて笑う千手観音と、闇の中、頭から血を流す一体の仏像だった。話を聞いた霊現象探求所を営む友人・真備は、早速助手の凛とともに瑞祥房に向かう。数日後、工房の天井に血痕を残して、一人の仏師が忽然と姿を消した。残された者たちがひた隠す、二十年前の悽愴な事件と仏像に込められた怨念とは?(帯より引用)

第5回ホラーサスペンス対象特別賞受賞作『背の眼』に続く、真備シリーズ第2作。



『向日葵の咲かない夏』は自分の好きになれない作風だったし、『背の眼』も読んでいなかったので、この作品に手を出すことにちょっとためらいがあったのだが、今ではものすごく後悔。ちょっと地味に見えるかもしれないが、背景から登場人物の内面まで含めて、じっくりと書き込みながらも、端正に仕上がった本格ミステリだった。

頭から血を流す仏像などの超常現象から始まる作品の謎だが、仏師の失踪や過去の事件が語られながらも、謎の本質がなかなか見えてこないという不思議なもどかしさ。いくつも散りばめられた謎が、結末で一気に解かれるその快感。舞台背景や登場人物の過去に感情移入しながらも、本格ミステリの素晴らしさを味わうことができる。まだ三作目とは思えないぐらい、見事な仕上がり。2006年を代表する本格ミステリである。

一作毎に作風から本格ミステリの仕掛けまで変えて発表するのだから大したもの。新作『シャドウ』がとても楽しみになってきた。