- 作者: 綾辻行人
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/03/17
- メディア: 単行本
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かつてこどもだったあなたと少年少女のための――ミステリーランド第9回配本。「館シリーズ」第八作目。
まさか「館シリーズ」がすぐに(といっても前作から1年以上経っているわけだが)読めるとは思わなかった。しかもミステリーランドからの刊行。これはネタに困った綾辻が二つの依頼を一作ですましてしまおうという一石二鳥を狙ったのか、それともこれを読んだ子供たちに「館シリーズ」全作を手にとってもらうための陰謀か、などと悪い見方をしてしまった。まあ、一応は本作単独で読んでも支障がないとはいえ、シリーズものをここで出す意味はほとんどないよな。私みたいにシリーズものが同じ装丁で揃っていないことに違和感を覚える人間にとっては、なんとも悩ましい刊行であることは間違いない。それとも、『吃驚館の殺人』と改稿した上で講談社ノベルスから出すつもりか?
中村青司が建てた館が出てくるが、びっくり館の特殊性が事件の謎に絡むことはない。一応鹿谷門実もちょこっとだけ出てくるが、事件の解決に立ち会うわけでもない。実際事件は未解決のままと公式ではなっている。うーん、これ、わざわざ「館シリーズ」で出す必要があったのだろうか。だいたい、中村青司が建てた館の存在と事件を知っている鹿谷が首を突っ込まないというのも変な話だ。作品を成立させるために、今までのシリーズの流れと異なった歪みが生じていることに、綾辻は気付いているのだろうか。
事件に謎、というほどの謎はない。密室殺人はあるものの、推理は存在しない。例によって例の、綾辻らしいトリックがあからさまに使われている。結末の引きは、囁きシリーズと変わらない。はっきり言ってしまえば、過去の綾辻のエッセンスだけでちょっちょいのちょいと書き上げた作品だ。自らの作品を解体し、つぎはぎをコピーしただけの駄作である。それとも綾辻は、すでにこの程度のパターンしか持ち合わせていない作家に堕ちてしまったのか。このような作品を読んだって、こどもが新たな本を手に取るとは思えない。色々な意味で、「子供騙し」な作品である。
「綾辻以前、綾辻以後」という言葉が存在するほど大きな存在であったはずの綾辻行人、実はたまたま時代の変換点に『十角館の殺人』を書いただけの作家という位置づけに堕ちてしまう。日本ミステリ史に名前を残す存在なのだから、ここらで逆転ホームランを飛ばしてもらいたいものだ。実際のところ、今のままでは厳しいと思ってしまうが。