- 作者: 島田荘司
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/10
- メディア: 単行本
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立て続けに起きた女優の自殺。時計塔での殺人事件。建築家の爆死。ジョディを影から助ける仮面の男、ファントムとは何者か。半世紀にも渡る謎を、若き日の御手洗が解き明かす。
「ミステリーズ」2003年12月〜2005年6月に連載された作品を加筆訂正。
御手洗潔シリーズ最新作は、1969年のマンハッタン。しかも解き明かす事件はそれから50年も前の大事件。ハードカバーで600ページという大変な量であるが、読者を引き込む力業はさすが島田荘司。当時のマンハッタンやブロードウェイの描写、それに摩天楼史も巧みに盛り込んでの一大犯罪劇である。冒頭のアリバイトリックやファントムの正体などは、当時の捜査で発見されそうなものだと思うのだが、些細な疑問などをねじ伏せてしまうのも、島田荘司の魅力である。
ただ、この小説をジャンル分けすると、本格ミステリではなく、本格探偵冒険小説になると思う。この事件の全容を、推理で解くことは実際に可能だろうか。読み返しているわけではないので自信はないが、御手洗潔以外には誰にも解けない謎だったと思う。そう、スーパーヒーロー、御手洗潔だけなのだ、この事件を解くことができるのは。乱歩通俗もので、明智小五郎が超人的推理と行動(毒薬をシャンペンに代えたりすることなんか、超人でなければ無理でしょう?)で事件を解決するのと同様、本作の御手洗潔は推理を越えた超人推理で事件を解き明かしてしまっている。そこにあるのは推理のようで推理ではなく、神のように先を見通すことが出きる眼である。推理はもはや、超人的能力を隠すための道具に過ぎない。
御手洗潔がスーパーヒーローと化した作品。もはや彼に、名探偵の言葉は似合わない。