平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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横山光輝『長征』上下(講談社漫画文庫)

長征(上) (講談社漫画文庫)

長征(上) (講談社漫画文庫)

長征(下) (講談社漫画文庫)

長征(下) (講談社漫画文庫)

毛沢東周恩来を中心とした中国労農紅軍は、蒋介石率いる国民党軍の執拗な攻撃を受け全滅の危機にさらされながら、揚子江下流の各根拠地から西南部の屋根伝いに西北部の陜西・甘粛省一帯に向かって、極限状況下の戦略的大移動を行った。所要日数371日、歩いた距離は12000km。18の高山を超え、17の大河を渡り、7つの強固な封鎖線を破り、6つの著名な要害を破った。しかし、10万人いた紅軍は、陜北に着いたときはわずか8000人だった。中華人民共和国誕生の決め手となったこの大移動を、「長征」と呼んだ。
本書は、長征の全貌を初めてまとめた岡本隆三『長征』を資料に、横山光輝が1973年、「ビッグコミックオリジナル」に連載した作品である。歴史的事実をただ描いていったのでは読者の感情移入がしにくいことから、貧乏農家の息子から軍に入った黄良成とその恋人である桃花を主人公にし、一兵隊の目から見た長征という形を取っている。
なぜ今まで本としてまとめられなかったのかはわからない。時代のせいかもしれないし、作者が気に入らなかったのかもしれない。20世紀の奇跡とまで呼ばれた大移動であるが、作品自体はやや盛り上がりに欠けるところがあった。一つ一つのエピソードをじっくりと描けば、もう少し感動が得られたのかもしれない。淡泊な描き方で終わっているのが残念な話である。
それでも、こうして横山光輝の初単行本化作品を読めるのは嬉しい。願わくば、一箇所でまとめて全集として出してほしいところだが、採算面から考えても難しい話なのだろう。