平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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谷譲次『踊る地平線』(上下)(岩波文庫)

踊る地平線 (上) (岩波文庫)

踊る地平線 (上) (岩波文庫)

踊る地平線〈下〉 (岩波文庫)

踊る地平線〈下〉 (岩波文庫)

がたん! 列車の振動とともに始まる大陸横断の旅。そしてBUMP! さまざまな人間を呑み込んだロンドンの街から、ドーヴァー海峡をひとっ飛び。フィンランドの湖水の静寂に浸り、夜のパリの甘い罪悪を探訪する。異才谷譲次(1900-35)が綴る昭和の初めの異世界リポート。

熱い太陽の下、牛と人との生死を賭けた闘いに沸き立つスペインの人々。享楽と虚飾の交差点、モンテカルロの賭場にたたずむ謎のマダム。リスボンの波止場にこだまする「しっぷ・あほうい!」の叫び。秘密を載せて走るイタリアの夜汽車。雪のサン・モリッツに展開する恋愛ゲーム。旅も大詰、谷夫妻は海路日本へ。(粗筋紹介より引用)

1928年8月〜1929年7月まで「中央公論」に掲載。



林不忘名義で丹下左膳を、牧逸馬名義で怪奇実話ものやミステリを書いた長谷川梅太郎が、谷譲次名義で書いた世界旅行記。シベリア、モスクワ、ヨーロッパなどを、ユーモアと異国情緒たっぷりに書き記す。文壇では海外旅行がブームとなっていた頃だが、庶民にとって海外はまだまだ見知らぬ異国の地であった頃。コントなどを書いていた谷名義らしい、彼独自の視点が楽しい。せっかく夫婦で旅行をしているのだから、妻からの声というものももっと載せてほしかったとは思うが、読者はこれを読んで見知らぬ異国の地を思い浮かべていたのだろう。ただ、内容が古めかしいので、今読むのはちょっとつらいのは事実。戦前ならではの、作品である。