平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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『小説推理新人賞受賞作アンソロジーI』(双葉文庫)



大学生の娘が結婚したいという。相手の名前は内旗。彼はある胸騒ぎを覚えた。渕田が入院した。見舞いに訪れた渕田は私に封筒を見せる。便箋には24年前にしたことを絶対に許さないと書かれてあった。そして今が動き出す。第13回受賞作、香納諒一「ハミングで二番まで」。

古書マニアである中堅作家のもとに、先日知り合った男が尋ねてきた。男は作家の対談記事に出てきたある本を見せてほしいと言う。その本を手に取った後、男は作家を問いつめる。第14回受賞作、浅黄斑「雨中の客」。

バーに来た女性客は、オーナー兼バーテンダーである川端に「伏見投手は八百長をしている」言った。女性客は野球のことをほとんど知らなかった。彼女が残したスクラップブックには、伏見のデビュー後二年間の記録があり、八百長の嫌疑があるゲームにはマークが示されてあった。川端は後輩の新聞記者である沢井にある事実を提示する。第15回受賞作、村雨貞郎「砂上の記録」。

私が気付いたとき、見えたのは揺れる炎だった。そして少年の声が聞こえてきた。私は崖から飛び降り自殺を図ったが死にきれず、少年に助けてもらったようだった。私は服を乾かす間、少年に過去を話す。第16回受賞作、本多孝好「眠りの海」。

刑事である風間は妻の敵を討つために、田沼を、田沼を支えている覚醒剤ルートを追う。第17回受賞作、久遠恵「ボディ・ダブル」。

小説推理新人賞受賞作を集めたアンソロジー第1弾。歴代選考委員から応募者へのアドバイスと本多考好のロングインタビューを併録。



小説推理新人賞は、第1回こそ大沢在昌だったもののその後は受賞作なしが続いたことから、存在自体忘れられそうな賞であったが、気が付いたら実力者が結構受賞している。この手の短編賞は作家によっては単行本としてまとめられないケースもあるので、こうして一冊のアンソロジーとしてまとめられるのはとても嬉しい。

「ハミングで二番まで」は、後に骨太のハードボイルド長編を連発する香納諒一の原型が伺える作品。この頃からアウトローな人物を描くのがうまかったんだね。

「雨中の客」は物語の展開が土に染みいる雨のように少しずつ心の奥底に流れていくような作品。展開そのものがありふれていても、書き方さえよければこうなるというよい例。

「砂上の記録」は本アンソロジーのベスト。人気ピッチャーの意外なジンクスから事件に辿り着くまでの展開は見事というしかない。

「眠りの海」は作者の才能を思わせる作品。ただ、名画の一場面を切り取ったという印象は拭えない。

ボディ・ダブル」は言葉足らずの部分があるが、ダークな展開は読者の油断を許さない。



こうして受賞作を並べて読むと、受賞するにはそれなりの理由があるのだなと思わせるものばかりである。アドバイスを載せるぐらいなら、選評全てを載せてほしいと思ったのは私だけだろうか。ミステリ作家を志す人なら、一度は目を通してほしい一冊である。。