- 作者: 大谷羊太郎
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 1989/01
- メディア: 新書
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乱歩賞受賞20年、1989年に書き下ろされた一冊。
大谷羊太郎というと「トリック・メーカー」というイメージしかなかったのだが、本書はトリックが突出することなく、物語や登場人物とトリックのバランスがうまく取れているので、読んでいて楽しい。タイトルの“大密室”を期待すると、肩透かしを食うことになるだろう。トリックそのものは機械的で、しかもやや陳腐といってもいいかもしれない。本書が面白いのは、2つの密室事件によって動き出す登場人物たちの人間模様、そして事件を追う警察官たちの内面である。題材としてはありきたりかもしれないけれど。
ただ、今のミステリ読者から見ると、退屈と思われるかもしれない。機械トリック、登場人物たちの恋愛模様、刑事による事件解決、さらにこの犯人像。新本格全盛になる前の、本格ミステリのあだ花だったのが、この頃脂がのっていた大谷羊太郎だったんじゃないかと思える。