平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

大倉崇裕『白虹』(PHP研究所)

白虹

白虹

元警官で今は夏の間だけ北アルプスの山小屋で働く五木健司は、下山する直前に名頃章という遭難者を助ける。見舞いに行って好感を抱いた五木であったが、名頃は恋人の裕恵を殺害して自らも死んでしまった。名頃がそのような人物に見えなかった五木は結果的に事件の真相を追うことになるのだが、逆に自分も狙われるようになった。

月刊文庫『文蔵』2009年10月〜2010年8月連載。加筆・修正後、2010年12月、単行本刊行。



「白虹」は太陽や月の周りに巨大な丸い光の輪が見える現象。「日暈」という言葉の方が有名な気もする。

大学時代にワンダーフォーゲル部に在籍していた大倉らしい山岳を舞台とした作品であり、その描写はさすがと言わせるところだが、事件そのものは山岳とは関係が無い。できれば絡めて欲しかったところだが。事件を追う内に過去の事件との絡みを見つけ、更に自分も巻き込まれ、過去と向かい合うという、典型的なパターンの作品だが、山の描写が一服の清涼剤となっており、読後感は悪くない。

ただ、何となく読んでいる内に終わってしまったところはある。それなりに盛り上がったのだが、主人公が精神的にぐずぐずしているところが気になった。そんな迷いが、そのまま小説のテンポにも影響していたような気がする。