平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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夏樹静子『最後に愛を見たのは』(講談社文庫)

離婚した青山は、8歳の息子昇との不安定な生活で女手に窮していたが、手伝いに来た愛人加代子は、不審な死を遂げた。父親に去られた昇の同級生ミドリも、淋しい二つの家庭を結びつけようと、幼い知恵を働かせていたが……。結婚と離婚をめぐる様々な問題を考えて、愛と勇気に溢れた結末に導く、傑作長編。(粗筋紹介より引用)

1984年10月、単行本刊行。1987年7月、文庫化。



母子家庭、父子家庭、離婚、慰謝料など、時代背景を鏡に愛憎あふれる殺人事件を追ったミステリ。事件の謎自体はそれほど難しくはないが、事件を取り巻く登場人物たちの丁寧な心情が印象深い。愛し合った男女が分かれると、ここまで憎み合うかね、と言いたくなるぐらい、描き方が巧い。作者が女性だからというわけではないかもしれないが、男性にとっては分の悪い描き方になっている。もっともこれは男性目線だからだろう。よくよく見ると、慰謝料の支払いに遅れて請求されて文句を言うとか、結婚する気はあまりないが子供の世話はしてほしいとか、男の方が非常に身勝手である。まだまだ男の方の立場が強かった時代か。

時代背景を写し取ったミステリとしては面白い。まあ、それだけなんだが。