平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

梓崎優『リバーサイド・チルドレン』(東京創元社 ミステリ・フロンティア)

 カンボジアの地を彷徨う日本人少年は、現地のストリートチルドレンに拾われた。「迷惑はな、かけるものなんだよ」過酷な環境下でも、そこには仲間がいて、笑いがあり、信頼があった。しかし、あまりにもささやかな安息は、ある朝突然破られる――。彼らを襲う、動機不明の連続殺人。少年が苦難の果てに辿り着いた、胸を抉る真相とは? 激賞を浴びた『叫びと祈り』から三年、俊英がカンボジアを舞台に贈る鎮魂と再生の書。(粗筋紹介より引用)
 2013年9月、書下ろし刊行。2014年、第16回大藪春彦賞受賞。

 

 『叫びと祈り』が評判になった作者の初長編。カンボジアが舞台で、主人公はストリートチルドレンに拾われた日本人少年。警察機構などあってないような場所で、どのようなミステリを描くのだろうと気になりつつ、今頃手に取ってみる。
 実際のカンボジアを知らないから正しいかどうかわからないが、舞台はよく描けていると思う。登場するチルドレンたちもそれぞれに特徴があってわかりやすい。ゴミ山からの廃品回収や食事の確保など苦労はしているものの、子供だけの世界を築きつつ、自由に生きようというパワーも感じ取られた。当時のカンボジアの社会情勢も、巧みに取り込まれている。雨乞いの爺さんというのがどういう人物なのかよくわからなかったのだが、視点が日本人少年なんだから、どこかで説明があってもいいのにとは思った。
 ただ結末まで読んでも、連続殺人に必然性が感じ取れなかった。読んでも理解できなかった。その前に、なぜ旅人が主人公の声を聴こうとしているのか。主人公の拙い説明から論理的な推理を導く展開になるのか。それがさっぱりわからなかった。わからないことだらけで、物語に浸っているところを台無しにされた気分になった。ただの理解不足と言われれば、それまでだが。
 せっかくのこれだけの舞台と登場人物を用意しながら、なぜ謎解きの範囲に物語を狭めてしまったのだろう。折角の広大な物語を無理矢理袋に詰めてシェイクして、結末で袋を解放したら元に戻ってしまった、そんな感じを受けた。うーん、なんだったんだろう。勿体ない。

恩田陸『ユージニア』(角川文庫)

「ねえ、あなたも最初に会った時に、犯人って分かるの?」こんな体験は初めてだが、俺は分かった。犯人はいま、俺の目の前にいる、この人物だ――。かつて街を悪夢で覆った、名家の大量毒殺事件。数十年を経て解き明かされてゆく、遺された者たちの思い。いったい誰がなぜ、無差別殺人を? 見落とされた「真実」を証言する関係者たちは、果たして真実を語っているのか? 日本推理作家協会賞受賞の傑作ミステリー!!(粗筋紹介より引用)
 『KADOKAWAミステリ』2002年8月号~2003年5月号、『本の旅人』2003年7月号~2004年9月号連載。加筆修正のうえ、2005年2月、角川書店より単行本刊行。2006年、第59回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)受賞。第133回直木賞候補作。2008年8月、文庫化。

 

 帝銀事件から約20数年後、北陸・K市の名家、青澤家で合同で行われた還暦祝い・米寿祝いで大量毒殺事件が発生。一家だけでなく、ご相伴した近所の人や子供たちなど、合計17人が亡くなった。生き残った中学一年生の長女、青澤緋紗子は盲目で何もわからない。青澤家を恨むものはなく、捜査は難航。毒入りの酒やジュースを配達した人物も見つからない。しかし事件から約3か月後となる10月の終わり、一人の男が犯行を自供する遺書を残して自殺した。若者が手紙に残した「ユージニア」という言葉の意味は。当時小学五年生で現場にいた雑賀満喜子は約10年後、この事件を題材に卒論を書き、後に『忘れられた祝祭』というタイトルでベストセラーとなる。それからさらに約20年後、一人の人物が当時の事件関係者に取材を始める。
 各章が特定の関係者の一人称、もしくは三人称で語られている。ところが名前は出てこないし、そもそも事件の概要も簡単なことしかわからないまま話は進んでいく。しかも何が真実なのかわからないし、語られている内容もぼやけたところが多い。それが結末まで進むのだから、ある意味大したもの。
 なんとも掴みどころのない話だが、不思議と目を離すことができない。読み終わっても、結局よくわからないまま。受け取り方で、各人の解釈が色々と変わってきそう。もやもやしたままだが、それでもあまり不満は感じない。そういう意味では、よくできた作品と言えるのかもしれない。
 ただ、好きになれるかどうかとなると、話は別なんだが。ちょいと苦手に感じるな。何がと言われても困るけれど。

『お笑いスター誕生!!』の世界を漂う

https://hyouhakudanna.bufsiz.jp/star.html
お笑いスター誕生!!」新規情報を追加。

酒井くにおさんが亡くなられました。ご冥福をお祈りいたします。

お笑いスタ誕でやったコントはその後やらなくなってしまいましたが、不条理感が漂っていて好きでした。その後の漫才も味があって、楽しかったです。

山村美紗『燃えた花嫁』(光文社文庫)

 絞殺、青酸死、モデルが相次いで殺され、日進化繊が社運を賭した夢の繊維の売れ行きに暗雲がたちこめた。巻き返しを図り、首相令嬢の結婚衣装を提供。しかし、挙式直後ドレスが突如燃えあがり花嫁は無残にも焼死した! ファッション界の醜悪な内幕を背景に、お馴染み、キャサリンと浜口の名コンビが謎に挑戦する!(粗筋紹介より引用)
 1982年6月、カッパ・ノベルスより刊行。1985年7月、文庫化。

 

 『花と棺』『百人一首殺人事件』に続くキャサリンシリーズ第三作。前作から二年後という設定で、キャサリンターナーはマスコミ関係で働いており、本作では事件の発端となるファッションショーの取材で来日している。
 「絹のようにしなやか」な新しい人工皮革「シャレード」のファッションショー前夜にモデルが絞殺され、さらにショーのフィナーレ直前でモデルが使っていた口紅についていた精算で殺される。同じく「シャレード」を使ったウエディングドレスを着た首相令嬢が結婚式の控室で焼死し、数日後には同じ「シャレード」のドレスを着た女優が焼死する。
 派手すぎるほどの連続殺人なのに、出てくるのは京都府警のみ。舞台が京都だからそうなんだろうけれど、首相令嬢まで殺されたとなるともっと上の方から色々言ってきそうなものだが。また、「シャレード」のドレスに引火して焼死したというのなら、実験ぐらい行いそうなものだが。さらに女優は人体実験で殺される、とんでもない展開。いくら殺人だからとはいえ、叩かれても仕方ないだろう。
 焼死事件は密室殺人でもあるのだが、トリックははっきり言ってつまらない。こういう化学トリックはうまく見せないと、ただこうやれば殺せます、というだけの話になってしまい、ミステリとしての面白味は何もない。本作はまさにそういう作品である。
 コースターに残された名前の謎なんて、すぐにわからないか。検討しない方がおかしい、などと突っ込むところはいっぱいある。警察は人間関係を全然調べないし。これでキャサリンと浜口にもう少しロマンスがあれば楽しめるのだが、二年ぶりに会うのにそういう要素はほぼ皆無。物語としても楽しめるところがない。
 出張続きで疲れていたので、未読本の中から頭を空っぽにして読んでもそれなりに退屈しない作品を選んだつもりだったが、失敗。