平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

ローリー・レーダー=デイ『最悪の館』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

最悪の館 (ハヤカワ・ミステリ)

最悪の館 (ハヤカワ・ミステリ)

 

 夫を亡くして以来、不眠に苛まれているイーデンは、星空の保護区として有名なダークスカイ・パークを結婚記念日直前に訪れる。生前の夫が予約していたのだ。だがゲストハウスで別のグループと同宿を余儀なくされることに。彼らはマロイという魅力的な男性を中心とした面々だった。その夜、何者かに彼が殺され、疑心暗鬼に陥る宿泊者たち。そしてイーデンは思いがけないことを指摘される……ジェフリー・ディーヴァー絶賛の、誰一人として信じられないフーダニット。アンソニー賞受賞作。(粗筋紹介より引用)
 2018年、発表。2019年、アンソニー賞最優秀ペイパーバック賞を受賞。2020年4月、邦訳刊行。

 

 作者はアメリカ、インディアナ州生まれで2014年デビュー。
 本作品の原題は"Under A Dark Sky"。舞台となっているダークスカイ・パークを指している。帯には「疑心暗鬼の極致に迫るフーダニット」とあるし、邦題を見た時は、まさかアメリカで館もの?なんて思ってしまったが、全然違った。
 数年前に交通事故で死亡した夫・ビックスが予約していたダークスカイ・パークの宿泊施設に一人で訪れたアマチュア写真家のイーデン・ウォーレスだったが、なぜか若者6人グループとダブル・ブッキングになっていた。その日は一緒に泊まるが、グループの中心だった酪農家のマロイが殺害される。
 誰がマロイを殺したのか、というのがもちろん主要なテーマであるが、話が進むうちに他のクエスチョンが登場し、イーデンとビッグスの関係や、マロイに対するグループ内の想いなどがどんどん明らかになってくる。
 確かにフーダニットだけど、本格ミステリではなくて心理サスペンスの要素が強い。なんか変にドロドロしていて、人間関係が色々と鬱陶しく、読んでいてもちょっと憂鬱になってくる。表面に見えていた内容と真実がガラッと変わるところは巧いとは思うけれど、あまり楽しいと思える内容じゃない。この辺はもう個人的な好みになってしまうけれど。ただ最後は意外とよかったかな。予想していた方向と違った。
 うーん、なんとも感想が書きづらい。まあ、好きになれない作風と内容だなと思った。読後感は悪くなかったけれど。

ザ・グレート・カブキ、タイガー戸口『毒虎シュート夜話 昭和プロレス暗黒対談』(徳間書店)

  「お前は戸口じゃなくて大口だ!」カブキの毒霧に、たじろぐタイガー戸口――日米マット界の裏と表を生きた同世代の2人の「記憶」は、きれい事だけで作られた「記録」よりも濃厚な昭和プロレスの闇に染まっていた!(帯より引用)
 2019年7月、刊行。

 

 ザ・グレート・カブキが店主を務める「BIG DADDY 酒場 かぶき うぃず ふぁみりぃ」に、日本プロレス時代の後輩であるキム・ドクことタイガー戸口が来店し、当時のプロレスを語り合った、対談形式の一冊。構成の原彬が「本人たちの記憶は、史実と違う部分もある」と語る通り、史実と異なる部分もあるだろうが、本人たちの大法螺(特に戸口はビックマウスで知られる)も含め、楽しむのが粋というものだろう。
 アントニオ猪木ジャイアント馬場、それに馬場元子の悪口が多いのは、金や待遇に泣かされてきた彼らにとっては仕方がないだろう。海外の自慢話も、特にカブキについてはわからないでもない。実際、一世を風靡したと思うし。他にもサムソン・クツワダが小指を飛ばしていた話はちょっと怖かったな。百田義浩がマフィアに沈められそうになった話とかも。多分色々なところで語られているのだろうが、私は初めて読む話だったので。
 戸口はWWFも長かったが、そのほとんどがジョバーだったと思うのだが。鶴田とのシングルマッチはよかったけれどね。馬場・鶴田vs大木・キム・ドク時代は盛り上がっていたね。動ける鶴田とキム・ドクで試合を作っていたから。新日本に行ってからはほとんど目立たず(年末のタッグリーグ戦で準優勝したぐらいか)、WARなどではキノドクと揶揄されていたぐらいだし。あんないい体をしていたのに、もったいない。
 カブキも登場シーンは良かったけれど、やっぱり飽きが来ちゃうよね。勝利パターンはトラース・キックから、とても効いているとは思えない正拳突きだったし。地方巡業や、アメリカのように転戦すれば別だっただろうけれど。
 ハイスパート・レスリングや四天王プロレスなどを見ると、彼らのプロレスがスローモーで楽しめない、という意見が起きるのもわかる。その辺はプロレスに対する価値観としか言いようがない。
 盛っている話も結構あるだろうけれど、まとめて読むとやはり楽しい。日本の団体内で活躍していたプロレスラーとは、見る視点が異なるので。

結城真一郎『プロジェクト・インソムニア』(新潮社)

プロジェクト・インソムニア

プロジェクト・インソムニア

  • 作者:結城 真一郎
  • 発売日: 2020/07/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

  「年齢・性別・属性の異なるメンバーが夢のなかで生活を共にする」。特殊睡眠導入剤〈フェリキタス〉の開発で莫大な財を成した、ソムニウム社による極秘人体実験、〈プロジェクト・インソムニア〉。被験者に選ばれた蝶野は、失意の日々から一転、自らの願望を具現化できる〈夢〉の世界に魅了されてゆく。しかし、とある〈疑念〉の発露が、完全なる理想郷を、突如おぞましい悪夢へと変貌させる。ここは夢か、それとも―――。蝶野のかつての盟友、蜂谷が囁く。「聞いたことないか? 夢の中で死ぬと、現実でも死ぬっていう都市伝説」。世間を震撼させたバラバラ殺人事件、消えた天才ピアニスト、口径が合わない大量の銃弾、そして、終わらない殺害予告。幾重にも張り巡らされた〈悪意〉の連鎖が前代未聞の惨劇を呼び起こす。期待の俊英による新感覚ミステリ。(帯より引用)
 2020年7月、書き下ろし刊行。

 

 作者は2018年、『名もなき星の哀歌』で第5回新潮ミステリー大賞を受賞してデビュー。本作は受賞後初の長編。
 前作を読んでいないので、作者は初めて。評判がよさそうだったので読んでみたのだったが、読み終わってみるとちょっと微妙。
 SF設定の特殊状況下での殺人事件。ある意味ルールを作者が好き勝手に決められるので、よほどうまく書かないと設定の説明ばかりで嫌になるし、仕掛けをうまくしないと読者は納得いかないだろうが、そこらはクリアしているかな。ただ、「もしあれがああだったら、どうするんだ?」と思った通りのネタだったので、がっくり来たというのが正直なところ。誰もが一度は考えないか? ネタをわかっていても面白い、というのが理想なのだが、そこまでの域には達していなかった。そもそも、文章がちょっと読みにくい。エピローグはちょっと良かったが。
 こういうミステリを読むと、作者にお疲れさまでした、と言いたくなるのだが、それ以上の感想はない。

 

アンソニー・ホロヴィッツ『その裁きは死』(創元推理文庫)

 

その裁きは死 (創元推理文庫)

その裁きは死 (創元推理文庫)

 

  実直さが評判の離婚専門の弁護士が殺害された。裁判の相手方だった人気作家が口走った脅しに似た方法で。現場の壁にはペンキで乱暴に描かれた数字“182”。被害者が殺される直前に残した謎の言葉。脚本を手がけた『刑事フォイル』の撮影に立ち会っていたわたし、アンソニーホロヴィッツは、元刑事の探偵ホーソーンによって、奇妙な事件の捜査にふたたび引きずりこまれて──。年末ミステリランキングを完全制覇した『メインテーマは殺人』に並ぶ、シリーズ第2弾! 驚嘆確実、完全無比の犯人当てミステリ。(粗筋紹介より引用)
 2018年、発表。2020年9月、邦訳刊行。

 

 『メインテーマは殺人』に続くホーソーンホロヴィッツ・シリーズ第2作。作品中の時系列でも、ホロヴィッツが『メインテーマは殺人』を書き上げた直後の事件ということになっている。
 今回は謎のメッセージが残され、それは被害者が扱った裁判の相手である人気女流作家の句集の182番目「君が息 耳にぞ告ぐる 裁きは死」に繋がって本書のタイトルとなっている。前作同様フーダニットを扱った作品となっており、いかにもというような容疑者が出てくる。ホーソーンの名推理と、ホロヴィッツの迷推理を楽しむことはできるのだが、何もわざわざ自分をここまで落とさなくても、という気はする。それに、作者自身をワトソン役にする意味があまり感じなかった。この点に関しては、続編が出るともうちょっと明確に描かれるだろうか。
 ホーソーンもガラの悪いホームズという感じで相変わらずうざいのだが、それ以上に気になるのは、ここまで仲の悪いホームズ&ワトソン役も珍しいということ。この点についても、もうちょっと明確な狙いがあるのか、気にかかる。
 事件の謎よりも、ホーソーンホロヴィッツの関係性に注目してしまい、肝心の事件が今一つというのはちょっと残念。面白いと言えば面白いが、前作に比べると目新しさが減った分、退屈な部分が増えたと言える。何も内輪ネタを連発しなくても、普通の本格ミステリに集中すればよいのに、と思ってしまう。まあ、なんだかんだ言いながら次作も読んでしまうだろうが。

『お笑いスター誕生!!』の世界を漂う

http://hyouhakudanna.bufsiz.jp/star.html
お笑いスター誕生!!」新規情報を追加。ウッチャンナンチャンのネタです。これでウンナンがお笑いスタ誕で披露したネタは網羅できたかな

生田直親『誘拐197X年』(徳間文庫)

 

誘拐197X年 (徳間文庫)

誘拐197X年 (徳間文庫)

 

  大阪・堂島の超一流ホテルの結婚披露宴会場から花嫁が誘拐された。皇族と財界の政略結婚と言われ、政財界のトップクラスが列席中であった。左翼組織から三億円の身代金が要求され、大阪、神戸を中心に張りめぐらした捜査網にもかかわらず、身代金はまんまと奪われてしまったが……
 花嫁に加えられる奇妙な儀式。犯人と接触する新聞記者。救出か惨殺か。事件は栂池スキー場を背景に急展開した。(粗筋紹介より引用)
 1974年7月、産報より書下ろし単行本刊行。1985年5月、文庫化。

 

 作者はテレビ脚本家として活躍し、1962年には『煙の王様』(TBS)で第17回文部省芸術祭賞文部大臣賞を受賞している。本作品で小説家に転向した。
 脚本家が小説家に転向してデビューしたのだが、言い方は悪いが、テレビの脚本を書いた人らしいなあ、というのが読み終わった時の印象。場面場面はいいし、印象に残るシーンやせりふもあるのだが、全体的にどうもちぐはぐ。とにかく所々で山場を設け、それをつなぎ合わせたような作品になっているのだ。
 時代設定がちょっと不明だが、少なくとも1972年を超えているので、連合赤軍事件以降。すでに学生運動自体が下火だが、深化していたともいえ、事件を起こすというのはまだわかる。新聞記者と接触できる運動家がいたのかどうかはしらないが。まあそこはいいけれど、まず花嫁誘拐の手順がそれほど大掛かりなものでもないのに、こんなに簡単に成功してしまうなんて、大阪府警警備体制、甘すぎるだろう、と言いたい。小説だから仕方がないかと思いながら読んでいくが、身代金の奪う方法なんて、某映画を車にしただけだし、予想つかなかったのかと言いたい。警察があまりにもお粗末すぎ。
 小説の展開もちぐはぐ。警備部と公安部で対立しそうな割には後半で公安は全然出てこない。花嫁へのわけのわからない儀式もその後の展開ではほとんど使われないので、拍子抜け。前半から後半への展開についてはもう滅茶苦茶。小さい子供がいるのに、犯罪に簡単に加わるか? 下手すれば命を失うし、そもそも生き延びる目算もないのに。新聞記者たちだってそう。いくらスクープ命とはいっても、こういう形で警察を出し抜こうと考えるかね。世間から批判浴びること必至なのに。
 所々のセリフは悪くないし、映像化したら映えるだろうなあ、というような場面が所々で出てくる。結局、読者に飽きがこないよう、無理やり派手な、意表を突く展開を一定間隔で入れていったから、辻褄の合わない小説が完成した、という印象。連載ならまだしも書きおろしなんだから、もう少し整合性について考えればよかったのにと思う。