平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

澤村伊智『ぼぎわんが、来る』(角川ホラー文庫)

ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)

ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)

 

  “あれ”が来たら、絶対に答えたり、入れたりしてはいかん――。幸せな新婚生活を送る田原秀樹の会社に、とある来訪者があった。それ以降、秀樹の周囲で起こる部下の原因不明の怪我や不気味な電話などの怪異。一連の事象は亡き祖父が恐れた“ぼぎわん”という化け物の仕業なのか。愛する家族を守るため、秀樹は比嘉真琴という女性霊能者を頼るが……!? 全選考委員が大絶賛! 第22回日本ホラー小説大賞<大賞>受賞作。 (粗筋紹介より引用)
 2015年、第22回日本ホラー小説大賞受賞作。応募時名義澤村電磁、応募時タイトル「ぼぎわん」。タイトルを変え、2015年10月、KADOKAWAより単行本刊行。2018年2月、文庫化。

 出版当時、ホラー界に大物新人現れる、みたいな感じで大きく取り上げられたのを覚えている。それが気になって、いつか読もうと思っていたが、ようやく手に取ることができた。読んでみると、確かに大物感はあるなと感じた。ただ、あまり好きになれない作品でもあった。
 ぼぎわんという化け物自体は、日本の妖怪ものを調べれば似たようなものは出てくるだろう。そもそも宣教師によってブギーマンと名付けられたものが日本語よみのぼぎわんになった、というのが設定だ。最初は単に妖怪小説の現代版焼き直しなのかな、と思ってい読んでいたら、いつの間にか現代の社会問題であるDVやイクメンなどが絡んできて、あらあらとなってしまう。第1章が田原秀樹の視点、第2章が妻の香奈の視点、そして第3章がオカルトライターである野崎崑の視点となっている。正直言って、ここまで登場人物を悪く描かなくてもいいじゃないか、と読みながら思ってしまった。そのせいか、感情移入できる人物が誰もいない。それが本当に苦痛だった。
 事件を解決する霊能力者の比嘉琴子・真琴姉妹も、なんか性格的にダメ。悪く描かれているわけではないのだが、生理的に受け付けない。結局、嫌な気分のままで読み終わってしまった。これじゃ、素直に楽しめないよね。そりゃ人間って、何らかの闇は抱えているだろうけれど、それをここまで醜く描かなくてもいいじゃないか。
 比嘉姉妹ってシリーズになっているようだが、これでは次を読む気が起きない。読者を選ぶ作品だったな、これは。

麻耶雄嵩『さよなら神様』(文藝春秋)

 

さよなら神様

さよなら神様

 

  隣の小学校の先生が殺された。容疑者のひとりが担任の美旗先生と知った俺、桑町淳は、クラスメイトの鈴木太郎に真犯人は誰かと尋ねてみた。殺人犯の名前を小学生に聞くなんてと思うかもしれないが、鈴木の情報は絶対に正しい。鈴木は神様なのだから――(「少年探偵団と神様」)。衝撃的な展開と後味の悪さでミステリ界を震撼させた神様探偵が帰ってきた。他の追随を許さぬ超絶推理の頂点がここに。(「BOOK」データベースより引用)
 「少年探偵団と神様」「アリバイくずし」「ダムからの遠い道」「バレンタイン昔語り」「比土との対決」「さよなら、神様」を収録。
 『オール讀物』『オールスイリ』等に2010年~2013年掲載。2014年8月、単行本刊行。

 

 『神様ゲーム』の神様こと鈴木太郎が再登場。どの短編でも冒頭で犯人の名前を言うのだが、強固なアリバイがあったり、犯行が不可能だったり、挙句の果てに聞いたことのない人物だったり。桑町淳は本当にその人物が犯人なのか、試行錯誤する羽目になる。
 なんとも麻耶雄嵩らしいと言っていいのだろうか。普通の本格ミステリを書く気はないのだろう。感想の書きづらい作品だが、これだけひねくりまくった作品も珍しい。所々でおっと言わせる推理もあるのだが、それ以上に結末がねじくれている。後味の悪い結末も多く、とても小学生の思考とは思えないものも多い。それも含めて、「これが麻耶雄嵩だ」と言ってしまえば、それですべてが通用しそうなところが恐ろしいのだが。読んでいて、おもしろかったのも事実だし。何はともあれ、最後にやられました。色々と怖いわ。
 なんとも形容しがたい作品だが、これ以上のパターンを作ることができるのか、聞いてみたいところ。

1か月ぶりの更新

へたっています。体ががたがたな状態。盆明けから、1日も休んでいませんよ(苦笑)。まあ日曜日に1時間ぐらい仕事をした、という程度の話ですが。本が読めないと頭が悪くなる、というのは本当かもしれない。全然読んでいません。

笹本稜平『最終標的 所轄魂』(徳間書店)

最終標的: 所轄魂 (文芸書)

最終標的: 所轄魂 (文芸書)

 

  贈収賄事件を追っていた城東署の強行犯捜査係長・葛木邦彦と、警察庁のキャリア組である邦彦の息子・俊史の父子。しかしあと一歩のところで黒幕の国会議員が射殺され、真相は闇に葬り去られてしまう。警察に政治家から様々な圧力がかかるなか、城東署管内で轢き逃げ事件が起こる。目撃者の証言により、事件はすぐに解決するはずだったが、容疑者が大物衆議院議員の息子と判明。捜査はまたもや警察VS.政治の様相を呈してきて……。(帯より引用)
 『読楽』2017年3月号~2018年3月号連載。2018年10月、刊行。

 

 葛木邦彦・俊史父子が凶悪に立ち向かうシリーズ第5作。前作『危険領域』で大物政治家に迫ったが……ということで本作では、次期入閣候補の大物衆議院議員のボンボン息子によるひき逃げ事件が発生。しかも相手はストーカーを続けていた相手だったということから、殺人未遂の疑いまでかかるも、政治家の圧力によって手を出すことができない、という状態。しかも俊史の上司で、葛木親子の後ろ盾ともいえる警察庁刑事局勝沼が警察学校の校長に異動させられる噂が流れてくる。はっきり言えば島流しといえるこの人事は、政界からの圧力ではないか。城東署や警視庁捜査二課が政治家父子を追うものの圧力はどんどん強くなり、有力証人は殺害される。
 笹本らしい展開と言ってしまえばそれまで。いつの間にか新しい証人や証拠が出てくる都合よい流れも相変わらず。まあ、それがテンポ良い流れになっているし、連載だからそれでいいのだろうけれど。大物がどんどん絡むのだから、所轄のメンバーなんかさっさと島流しにしてしまえばいいのに、なんて思ってしまうけれどね。
 まあ、なんだかんだ言っても楽しく読んでいるけれどね。最後の展開は、今回はうまいと思った。なるほど、そこに証拠があったか、という点で。


 お盆なので、夏季休暇に入ります。いつ復活できるかな(笑)。