平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

加藤元浩『奇科学島の記憶 捕まえたもん勝ち!』(講談社ノベルス)

  嵐の孤島には、名推理がよく似合う!
 元アイドルの捜査一課刑事・七夕菊乃と変人捜査官・深海安公がバカンスに出かけたのはかつて不老不死研究が行われていたという“奇科学島”。このいわくつきの島で連続殺人が発生した! ところがこの事件、殺された被害者が生き返りもう一度動いたとしか思えない不可思議な痕跡ばかり。不老不死人間が実在したとしか思えぬ事件の真相とは? 孤島、不穏な旧家、不可能犯罪、マッドサイエンティスト――人気ミステリ漫画の著者が「小説でしかできない」と語る謎てんこ盛りのミステリーワールド!(粗筋紹介より引用)
 2019年2月、書き下ろし刊行。

 

 七夕菊乃シリーズ第三作。バカンスに行くのなら、少しは楽しいシーンがあればいいのに、と思ったのは私だけか(苦笑)。
 帯に「見立て孤島不可能因習連続殺人……あと他色々ミステリ!」と書いている通り、本格ミステリの型をここぞとばかりにつぎ込んだ作品。生首、密室、不可能殺人など、本格ミステリファンの目を引きそうな内容なんだが、問題はその解決。本格ミステリは、読解不可能な謎がスパッと解かれるその爽快さも魅力の一つだと思っているのだが、その爽快さがまったくない。アンコウのメールで密室とかの謎は中盤であっさりと解かれてしまうし、犯人にしてもあまりにもあからさまというか。ここまでくると、わざとやっているとしか思えない。謎は詰め込みすぎちゃもたれるだけ。詰め込みすぎたからすぐに解き明かされないと話が進まない。これじゃ楽しめない。
 それと、マスコミによる菊乃バッシングはいらなかった。今時こんなことしたら、かえってマスコミが責められるだろう。邪魔をするならもう少し別の方法があったんじゃないだろうか。
 せっかくのシリーズなのだから、キャラクターの進展をもう少し見たかった。今一つだったので、もう少し違う方向で次の作品を読んでみたい。

 

トム・マクナブ『遥かなるセントラルパーク』上下(文春文庫)

新装版 遥かなるセントラルパーク (上) (文春文庫)

新装版 遥かなるセントラルパーク (上) (文春文庫)

 
新装版 遥かなるセントラルパーク (下) (文春文庫)

新装版 遥かなるセントラルパーク (下) (文春文庫)

 

  ロサンジェルスからニューヨークまで5000キロ。アメリカ大陸横断ウルトラマラソンがはじまる。イギリス貴族、人生の逆転を狙う労働者、貧しい村のために走るメキシコ人、ガッツを秘めた美しき踊り子……2000人のランナーが、誇りをかけてセントラルパークめざして走りはじめる! 圧倒的な感動と興奮の徹夜本、堂々の開幕。(上巻粗筋紹介より引用)
 次々に脱落してゆくランナーたち。砂漠では猛暑と豪雨が、ロッキー山脈では寒さが襲い、オリンピック委員会の妨害でレースは中止の危機に。だが誇りをかけて走りつづける彼らは、力を合わせて敢然とトラブルに挑み、ともに遙かなるセントラルパークをめざす。そこで待つのは「感動」の二文字には収まりきれない圧倒的な感情だ。(下巻粗筋紹介より引用)
 1982年、イギリスで発表。作者の処女作。1984年7月、文藝春秋より単行本刊行。1986年8月、文庫化。2014年12月、新装版刊行。

 

 本書で出てくるアメリカ大陸横断マラソンは、1928年に実際に行われたとのこと。約200人が参加し、当時の新聞は連日その経過を報道した。
 本作はその史実に着想を得て書かれた作品。参加人数は実際の10倍。走行距離5000km、レース期間3か月。とんでもないウルトラマラソンだが、様々な職種、国籍の登場人物を多数配し、さらには政治家や当時のオリンピック委員会など、様々な妨害にあいつつも、それ以上の支援と応援を受け、ゴールまでたどり着く感動の物語である。
 はっきり言って読む前は、距離が長いだけのマラソン大会にどんなストーリーを絡ませることができるのかが疑問だったが、猛暑や豪雨などの自然との闘い、妨害工作などの人との闘い、そして資金不足など様々な困難が待ち構えてくる。ただ走るだけのストーリーにならず、いつしか一緒に走っている者たちの連携、友情や愛情などが彩るようになる。走りきることにプライドを賭け、一丸となって困難に立ち向かっていくその姿が美しい。
 最初は登場人物が多すぎるように感じ、どういう風にまとめていくのだろうと思いながら読んでいたが、いつしかそんな登場人物たちに感情移入してしまう。全員が、しかも走るものだけではなく、企画者や食生活などを支えるスタッフまでもが一体となる。
 いやあ、いいものを読ませてもらった。

望月守宮『無貌伝~双児の子ら~』(講談社ノベルス)

 

無貌伝 ~双児の子ら~ (講談社ノベルス)

無貌伝 ~双児の子ら~ (講談社ノベルス)

 

  人と“ヒトデナシ”と呼ばれる怪異が共存していた世界――。名探偵・秋津は、怪盗・無貌によって「顔」を奪われ、失意の日々を送っていた。しかし彼のもとに、親に捨てられた孤高の少年・望が突然あらわれ、隠し持った銃を突きつける! そんな二人の前に、無貌から次の犯行予告が!! 狙われたのは鉄道王一族の一人娘、榎木芹――。次々とまき起こる怪異と連続殺人事件!“ヒトデナシ”に翻弄される望たちが目にした真実とは!?(粗筋紹介より引用)
 2008年、第40回メフィスト賞受賞。2009年1月、講談社ノベルスより刊行。

 

 「守宮」と書いて「やもり」と呼ぶ。プロフィールは一切不明。
 戦前の日本が舞台と思われるが、“ヒトデナシ”という得体のしれない怪異が混在する世界が舞台。主人公は古村望という15歳の少年。秋津承一郎の助手となり、依頼のあった榎木家に行く。
 顔を奪うというのが、実際に奪われるという設定なので、そこで少しげんなり。しかもその時点までの知り合いからは姿も声も認知されなくなるという設定で、被害者は2週間以内に死んでしまう。しかし秋津だけは今も生きているという設定。まあ細かく設定しているな、いかにも続編か番外編当たりに書きますよ、みたいなあざとさがあまり好きになれない。
 とまあ、あまり読む気が起きない状態で読み進めてみると、意外にも一応本格ミステリっぽい内容になっているのでちょっと驚く。連続殺人事件と謎解きがあるのだが、残念ながら推理らしい推理はない。なぜこの犯人にたどり着いたのか、というところが思いつきに近いので、拍子抜け。これでトリックや推理があったら、もう少し楽しめたんだけどね。長いわりにヒロイン以外の描写も今一つで、誰が誰なんだか状態だったし。
 結局続編前提の謎てんこ盛り「だけ」の作品。まあ、シリーズとして書くのならいいんじゃないのか、といった程度。あまり興味はひかれなかった。
 ちょっと確認してみると、長編はこのシリーズ以外は書いていない模様。数冊出して、2014年には完結したのかな。まあ、読む気は起きないけれど。

「推理クイズ」の世界を漂う

http://hyouhakudanna.bufsiz.jp/mystery-quiz/index.htm

「その他の推理クイズ本作品リスト」に感想、画像他を追加。

3年ぶりの更新(笑)。今まで取り上げてきたジャンルから考えるとちょっと違うんだけど、タイトルに“推理クイズ”ってあったので、確信犯的にリストに入れてしまった(苦笑)。「おはなし推理ドリル」とか入れようかどうか、迷っているところ。

東野圭吾『沈黙のパレード』(文藝春秋)

沈黙のパレード

沈黙のパレード

 

 突然行方不明になった町の人気娘が、数年後に遺体となって発見された。容疑者は、かつて草薙が担当した少女殺害事件で無罪となった男。だが今回も証拠不十分で釈放されてしまう。さらにその男が堂々と遺族たちの前に現れたことで、町全体を憎悪と義憤の空気が覆う。秋祭りのパレード当日、復讐劇はいかにして遂げられたのか。殺害方法は? アリバイトリックは? 超難問に突き当たった草薙は、アメリカ帰りの湯川に助けを求める。(粗筋紹介より引用)
 2018年10月、書き下ろし刊行。ガリレオシリーズ第9作。

 

 久しぶりとなるガリレオシリーズ。湯川はアメリカ帰りという設定にすることで、今までの隙間を埋める形となっている。
 読んでいて思うのは、東野圭吾ってあざといなって。正直言って、こういうパターンで来るだろうな、なんて思いながら読めてしまうところがあるんだけど、それでも結局読み進めてしまう面白さがそこにある。そのくせ、いやになるくらいひっくり返し続けるところもある。単純にハッピーにならないところも、嫌らしい。それでも読んでしまうんだよな。
 正直言っちゃうと、被害者の女性がああいう形だったのもどうかと思ってしまうわけで。なんか、読んでいる人を嫌な思いにさせちゃうな、というか。
 トリック自体は面白かったかな。確かにこれで謎が面白くないと、ただの気持ち悪い作品になってしまう。
 なんだかんだ言っても、キャラクターの関係性を少しずつ触れながら書き進める展開も、嫌らしいと思いつつ、うまいなあと思ってしまうわけで。なんかテクニックだけで書いている気もしつつ、それでも面白く読めてしまうんだから、すごいなあとは思った。

犯罪の世界を漂う

http://hyouhakudanna.bufsiz.jp/climb.html

無期懲役判決リスト 2019年度」に1件追加。

「ノンフィクションで見る戦後犯罪史」に事件概要を追加。

「ノンフィクションで見る戦後犯罪史」は8か月ぶりの更新。数年前は毎日パソコンを部屋で見ていたけれど、最近はダメ。もうすぐ寝てしまうぐらい、疲れている。

 それにしても、大崎事件の再審請求棄却にはびっくり。最高裁も方針展開したかな。差戻じゃないところに、簡単に再審をさせないよ、という強い意志を感じる。じゃないと、5人全員が棄却で一致しないよね、絶対。